文吉日記

2019/01/13 ずっとほったらかしだった忍者ブログから引っ越してきました

今日は朝から神田の荒物屋、
丸二商店で店番だ。    

日は差していないものの、風もなく蒸し暑い。 
人通りは少なく、猫すら歩いていない。 
こんな時分に束子だのヤカンだのを
買いに来るような客もいないので暇である。    

こんなことであろうと持参した本を読む。 
『風俗 明治東京物語

風鈴の音と蝉の声しか聞こえない中、
何に邪魔されることなく無心に読んでいると
ふと、その時代の中にいるような気がしてくる。
もう昭和だというのに……
可笑しな話だ。



荒物屋 丸二商店


まだ昼には少し早いが
今のうちに昼飯をすませておこう。
弁当を持って外に出る。

食べ始めるとすぐ、鳩がよってくる。
飯粒を撒いてやると忙しそうにつついてまわる。
そういう様子を見ていつも思うのだが、
小石や草、落ち葉などの中からよく、
飯粒を見つけて選って食べるものだなぁ。

けっして他のものを間違えて食べたりせず、
飯粒は一粒残らず食べるのだから大したものだ。
犬の様に鼻も頭も良いとは思えぬし、
よほど目が良いのだろうか。
餌とそうでないものをどう見分けているのだろう。



飯粒を喰うハト
 

などとボンヤリ考えながら弁当を食べていると、
飯の上にポトリと何かが落ちてきた。
蟻だ。 
どこから来たのかと見上げれば、 
そこには背の高い木ばかりが繁っている。    

あんな高いところから、このたった掌二つ分程の
弁当箱目掛けて飛び降り、見事命中するとは。 
この黒ずくめのナリといい、 
音もなくひらりと舞い降りる様といい、
ぬしは忍者か、
と、たずねてみる。



見上げれば 高い欅