文吉日記

2019/01/13 ずっとほったらかしだった忍者ブログから引っ越してきました

白い部屋の恐怖

注射が怖い。

特に採血が怖い。

どれくらい怖いかというと

採血の時、
注射器をもった看護婦さんが来る。
まっすぐこちらに向かって来る。
ふと目が合ったとき、
看護婦さんの顔がこわばった。
そしてクルリと踵を返すと
一目散に年輩の看護婦さんのところに行き
「あの患者さんの採血お願いします」
キッパリと言った。

また、別の採血のとき。
覚悟を決めて腕をめくられる。
上腕をゴムバンドで締められる、多分。
恐怖でよくわからない。
が、目をつぶったりすると怖いのがバレるので
何気なく、ごく自然に、
壁に張ってある薬のポスターなどながめ
平静を装う。
「アタシだって怖いんだから、怖がらないでください!」
看護婦さんに怒鳴られた。


またあるとき、
いつものように注射の前の一連の儀式。
恐怖に耐えるだけで必死だというのに、
アルコールで拭いたり、
ゴムで締めたり
手を強く握りしめろとか
血管が出ないと言って叩いたりする。
あぁ
やるなら早くヤッてくれ。
恐怖は最高潮、
椅子にまっすぐ座っているのか
どうかも分からない。
自分の顔が白くなっていくのが分かった。
………
目が覚めた。
あれは…悪夢…か?
「気が付きました?」
え?
「採血の途中で気を失っちゃったんですよ」
看護婦さんはニコリともせずに言った。

あぁ、こんなにも注射が、採血が怖い。
のに、
今日は採血だった。

でも、これまでのことは過去のこと。
大人と呼ばれるようになって久しい。
もう大丈夫だ、ぜったい。
怖いなんて悟られないぞ!
何気ない顔で待った。
一連の儀式も何事もなくすんだ。
そしていよいよそのときがきた。
呼吸が浅くなる、
長い…なんリットル採っているんだ…
もう…
「手を楽にして下さい」

「開いていいですよ」

どうしてこんなときに楽にできるものか、
と、思いつつ、
満身の力を込めて拳を開いた。
頑張った、よく頑張ったな。
ついに恐怖を気取られることなく
採血をやってのけたぞ!
「ゴメンなさいね~、痛いですよね~」
看護婦さんが涙を拭いてくれた。